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復活のカキに思う3.11。

 うまいものはいつでも、いつまでもある。と、楽観してたわけではない。でも、本当に魔法で消したように、店の棚から失くなってしまうことを、具体的に考えられてはいなかった。きっと、そういうことだと思う。3年前のあの日を境に、晩酌に欠かさない三陸産の魚介類が消えた。売れる量だけを見越して製造し、在庫をためずに流通させるオンデマンドな品々も、自己防衛に則った買い貯め行動で速やかに売り切れた。
 ディスプレイ灯が消えたステンレス棚の虚ろな暗さを、いま思い出している。何よりも痛ましい、棚を満たしてくれていた漁業者たちの落命。船と漁具の喪失。トロ箱や、氷や、漁具や艤装や船専門の鉄工所……いっときのうちに災害廃棄物と化した、膨大な仕事のつながり。このような形で、ふだんの食がお預けを食らうとは。

 いま、三陸の港に水揚げされる魚介類は、復活を果たしつつあるものも少なくない。カツオ、サンマ、沿岸の多種多様な魚や貝、エビ、カニ。店頭で買えるようになってきたこと自体が、被害の途方も無さから考えれば、奇蹟と言ってもいいと思う。

 一方で、漁師が血の出る思いで再起を果たしたのに、なぜかいま店頭に並んでいないものがある。カキだ。あるにはあるが、加熱用がちょこっと。生食用のロケット袋があったと思うと広島産、兵庫産。おかしいなと思っていたら、買われない、値段が上がらないという、やりきれなさ極まる報があった。ソースは河北新報。

(記事を探したが見つからない。ので、コピーしておいたテキストを、文末にペーストしておきます)

 殻付きカキを一般家庭でいつも食べるのは相応にハードルが高い。浜の衆のように軽快に剥けるようになるには、ずいぶん練習が必要だし。焼きガキにすれば口を開いてくれるけれど、少人数の家庭だったり、電化してガスが無かったりと不利な条件は多い。水揚げしたカキの処理場は整備が遅れている。むき身を安定して供給するにはまだ時間がかかる。

 震災以前の規模には到底及ばないにしろ、ここまで再興したのだ。ちゃーんとした価格で買い、むだなく食べきるという理想的にしてあたりまえの食べ方が、市場を通すとなぜこんなにも難しいのだろう。海を相手に紙に書いたような「安定供給」なんて必ずしもできない、それがふつう。ないことに不平を言ったりせず、中間業者も、家庭も、販売店や飲食店も、あるものを並べて、メニューは工夫して日々の食を組み立てる。海が「できたよ」と言ったら、迷わず買って、買いつないで、行き渡らせて味わい尽くす。柔軟なモチベーションに支えられた仕組みは、そんなにむずかしいことなのか。

復活のカキに思う3.11。_a0118120_13434430.jpg

 写真はこの2月、石巻市長面浦で食べる会が催された、小川水産のカキ。右の「1年物」は殻の内側きっちきちに育った。その中から選りすぐったものをカゴにとりわけ、さらに1年育てた、長面で初めての「2年物」が左。 小川英樹さんは「長面では誰もやってなかったから」と言う。
 (催しは [石巻に恋しちゃった]という、50手前のおっさんが口ずさむには少々照れくさい地域おこしのプログラムでありました。 松原荘の Tomoya Kinoshitaくんもありがとうございました。)

 浜では意欲のある若い生産者が、それぞれの工夫をこらしてとびきりおいしく育て上げた独自の「◯◯カキ」を直販している。まちの飲食店がこぞって買い付け、殻付き生カキや焼きガキ・蒸しガキをばんばん一押しメニューに載せてくれるといいのにちかごろ人気の「仙台せり鍋」のように、提供する人と食べる人の「誠意」でもって盛り上げていければいいのに。仙台なんてあれだけ人が集まってあれだけ飲食店がひしめいているのだ、東京で座して待つ「お取り寄せ」でなく、産地へ出向く「ネオ産直=産地直行」市場をつくるには最高のまちじゃないか。
 漁協を通した共販による、誰でもいつでも買いやすいむき身の供給も維持しながら、再起の海からの授かりものを余すところなく食べ尽くそうぜ。可能だ、と僕は思う。


「カキ養殖戻らぬ販路 担い手減少、打開模索」河北新報より

昨秋使用を始めた万石浦鮮カキ工場では、生産者やその家族らがカキの殻むき作業に精を出す=2月中旬、石巻市渡波
 東日本大震災で大打撃を受けた三陸沿岸の水産業に、販路喪失や担い手減少という壁が立ちはだかっている。生産量は回復傾向が続き、全国2位の水揚げを誇った宮城県産カキは今シーズン、震災前の4割弱まで戻る見通しだが、価格は低迷気味だ。震災後、漁業者の廃業が相次ぐなどして供給力は不安定になっており、取り扱いの拡大をためらう仲買人もいる。(報道部・小木曽崇)

<価格3割下落>
 「これほど実入りが良いシーズンは、この20年でもなかったのに…」。2月中旬、宮城県石巻市渡波のカキ処理場「万石浦鮮かき工場」で、カキ養殖業の本田孝彦さん(38)=同市=が肩を落とした。
 施設は昨年10月、仲間のカキ養殖業者と再建した。今期の生食用県産カキの価格は、昨年末こそ平年を上回ったが年明けに下落。2月中旬には1キロ当たり748円と平年の約7割になった。
 殻むき作業をする処理場は、操業再開を目指す県内53カ所のうち48カ所が稼働する。今期の生産量は2012年漁期の2.5倍、約1500トンに達する見通しだ。
 震災直後の11年漁期は319トンまで落ち込んだ。供給に空白が生じた影響は今も消えず、県内の小売店では広島県産や岡山県産が目立つ。

<仲買人尻込み>
 今期の生産量は回復したとはいえ、震災前(09年漁期)の約35%。供給の不安定さが宮城県産カキを扱う仲買人を尻込みさせる。
 生産量が597トンだった12年漁期。仲買人の多くは、その倍の生産を見越し、小売店から注文を受けた。実際は生産が追い付かず、平均単価は震災前を26%上回る1404円に高騰した。
 ウツミ水産(宮城県利府町)の内海春寿社長は「12年は小売店から受けた注文量を確保するため、多くの業者が損失をかぶった。今期は受注を抑え気味にしている」と明かす。
 処理場が復旧しても、この先、生産量がどこまで回復するかは見通せない。後継者不足が深刻さを増しているからだ。県によると震災前、カキ養殖を営む経営体は920あったが、廃業などで622に減少した。
 本田さんは「共同販売を基本にインターネットを活用するなど新たな売り方を研究し、県産カキのブランド力を上げていくしかない」と、難局打開へ活路を模索する。


by kawa-usso | 2014-03-11 13:47 | 震災を越えて。


ササニシキ偏愛の米農家兼ライター/フォトグラファー。みやぎ石巻(本宅)&北東北いわて支局(通称:花巻小屋)〜長大な北上川河畔の南北拠点から、東北6県の[農林漁業と食住の文化]を観て聴いて報告しています。


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