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言葉に、少しずつ出番が回ってきた。

「なんとも言えない」は使うな。
 文章修練のある時期に、そう教えられた人は少なくないと思う。おいしさなり美しさ、それで動いた心を、言葉を使ってなんとか表現するのがわれわれの仕事なのだ、と。
 あの日言葉は無力だった。言葉の使い方を鍛え、磨いてきたつもりの職能者が、ただ黙り立ちくして降参するしかなかった。何を伝えるというのか。どう伝えられるというのか。それが何の力添えになるというのか。
 浜で必要だったのは行動あるのみ。救ける、守る、探す、命をつなぐ。言葉は状況と要不要を伝えるツールとして、あるいは生存をかけた瀬戸際でかけあう励まし、という機能しかなかったのではないだろうか。

 ほとんど破滅的と言ってもいい挫折。完膚なきまでに叩きつぶされ、それでも行かずにはおられず最寄りの浜を訪ねた時の心中は、どこまでもバツが悪く、いま思い出しても肚がキュウと縮こまる思いがする。そんな自分に、散歩ですれ違ったように「やあ」と、笑顔を見せてくれた漁師の強かさにはただただ恐れ入り、頭が上がらない。

 そうだ、幸いだったのは、人は泣いてばかりではなかったこと。一部は驚くばかりの意気込みと行動力で再起へ歩み始めたし、救援から暮らしの再建へ支援へと活動が広がる中で、うつむいていた顔を上げる人も出てきたこと。そして気がつけば、言葉の限界を思い知らされてなお、土に立ち人に添う優しい書き手がいた(優しい、は優れているのだ)。

「RE」というのは、そんなプロジェクトである。
 
言葉に、少しずつ出番が回ってきた。_a0118120_15221470.jpg 何もかもめちゃめちゃに壊されてしまった仙台市の沿岸部。ここにどのような暮らしが取り戻せるか、つくれるか。そのカギは、「ここにどのような暮らしがあったか」にある。そこで言葉の力、地元学の力が生きてくる。話を聞く。ひたすら聞いて書きとめる。農、味、習わし、祭り。暮らしの跡をたどる。できるものは再現する。(結城登美雄さん風に言えば)そんな浜が浜であった姿、ムラがムラでありえた理由を考慮しないで、どんな生活再建もありえないのだ。

「RE」の12号続いた報告は、一区切りということになったようだ。プロジェクトサイトからPDFをダウンロードできます。きっと
 4回めの春を前に。
by kawa-usso | 2015-02-28 15:25 | 震災を越えて。


ササニシキ偏愛の米農家兼ライター/フォトグラファー。みやぎ石巻(本宅)&北東北いわて支局(通称:花巻小屋)〜長大な北上川河畔の南北拠点から、東北6県の[農林漁業と食住の文化]を観て聴いて報告しています。


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