図鑑をもつ愉しみ。

 男3人女2人の飲み会席上、意見がスパっと割れたことがある。
 設問は、キノコ狩り&キノコ料理、山菜採り&山菜料理、どちらが好きか。女子は「山菜」。野郎(自分含む)は「キノコ」。ちなみに朝日連峰と飯豊連峰ではどちらが好きか、という設問でも女子は飯豊、野郎は朝日と真っ二つ。山域それぞれの個性を説明するのは長くなるから割愛するけど、越えがたき性差の壁が何やらありそうと感じる話題だった。今もってその理由はわからんちん。

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 で、キノコ。松茸だのホンシメジだの舞茸だのを探し当てる能力と根性はないので、専ら雑キノコハンターだが、これが愉しくておいしい実利もついてくる。多種多様を極める世界なので、当然ながら図鑑は欠かせない。ま、複数冊持っているのだけれど、よく手に取るのがこれ。『きのこ 見分け方 食べ方』(家の光協会)。
 伊沢正名(いざわまさな)氏のキノコ写真は定評動かざるものだが、解説の清水大典(しみずだいすけ/故人)の文章もすばらしい。見分け方・食べ方解説の前文として、そのキノコに関するミニ知識、雑学、個人的な思い入れなどなどが、ミニエッセイのごとくにこぼれ出ている。ちと長いけど、「エノキタケ」を引用してみよう。

 栽培キノコには当然のことであるが、天然自然の野生種があり、よく味の優劣が話題となる。 ナメコ、シイタケがよい例。業者にはちょっと酷だが、本音として野生種にまさるものはない。しかしこの両者は姿形の上で、まだ我慢できよう。エノキタケの豹変ぶりはどうであろう。形も色彩もまったく原型を失い、本来さわやかさと、重厚さが競合する野生エノキタケのすぐれた味覚はどこにもない。キノコ狩りというものは紅葉前線と二人三脚、秋が深まり落葉してしまったらストップ。しかし味抜群のエノキタケは、むしろそれからが出番。雪の中でも活発に発生を続ける。

 どうでしょ。写真と解説がわかりやすいこと、は図鑑の必要欠くべからざる機能ではある。でもお固い解説に終始するだけなら、誰が書いたってそう違いはない。芸が発揮できない領域でないことは、この図鑑を観て読んでわかった。図鑑というものも、読んで言葉をころがす楽しみさえたっぷりに仕上げることができる。目からうろこであった。


a0118120_164226.jpg そういう、開く愉しさのある図鑑が、もう1冊加わった。葛西愛さん、『散歩で見かける街路樹・公園樹・庭木 図鑑』(創英社/三省堂書店)
 1種につき解説文は110字前後、取材ノートからの「ひとくちコメント」が40字くらいで、計150字あまり。意図したのかどうかはわからないけれど、ツイッターに近い感覚だと思う。このひとくちコメント、「その樹木を見たときの印象や思い出、豆知識などをつぶやいています。」だって。やっぱツイッター(笑)。領域は文学、実用、地域性、色や形状、個人的な思い出まで、フラクタルな枝葉の広がりのよう。
 2冊に共通するのは、プロの五感や考えの進め方を借りて、キノコなり樹木に接することができる点。食い気にほだされているキノコよりも、樹木は尚一層あまりに身近すぎて僕自身は恥ずかしほど何も知らない。けれど、とりあえずは名前と姿形だけでも「覚える」ところから増やしていこう。まず出会って知ることで、『星の王子さま』を引くまでもなく、ただの草木がヤマボウシやハクウンボクやエノキに変わる。その先にはさらに広く、深い植物(生きもの)の世界が広がっている。

 とりあえずは携帯本として、常時籠に入れておく。
by kawa-usso | 2012-07-28 16:37 | 本の話題と掲載誌。


ササニシキ偏愛の米農家兼フリーライター。みやぎ石巻(本宅)&いわて花巻(小屋)……長大な北上川河畔の南北拠点から、東北6県の[農林漁業と食住の文化]を観て聴いて報告する「じぶんメディア」


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